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生野簡易裁判所 昭和34年(サ)165号 判決

債権者 早川五十次

右代理人弁護士 馬場次郎

債務者 信用組合大阪商銀

右代表者代表理事 大林建良

右代理人弁護士 中村健太郎

主文

当裁判所が債権者債務者間の昭和三十四年(ト)第四七号不動産仮処分命令申請事件につき昭和三十四年五月一日に為した仮処分決定は之を取消す。

債権者の本件仮処分申請は之を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

右第一項は仮に執行することができる。

事実

債権者代理人は、

債権者、債務者間の昭和三十四年(ト)第四七号仮処分命令申請事件につき、昭和三十四年五月一日生野簡易裁判所がなした仮処分決定はこれを認可する。

債務者の異議申立はこれを却下する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

との判決を求め、その理由として、

一、債務者は大阪市生野区新今里町一丁目十六番地に二十七坪の土地を所有し債権者はその西側に隣接する同町一丁目十五番地の二、所在土地八十四坪三合八勺を所有するものであり、該地上に北端に木造瓦葺二階建一棟を新築し階上はアパートとして賃貸して居り、その南側にもアパートを新築せんと基礎工事を完了して居り南端には倉庫兼住宅を所有して居りこれらの建物はいずれも東側債務者所有土地との境界線より一尺五寸の距離を存して建てている。

二、ところが債務者は前記地上に鉄筋建物を新築すべく昭和三十四年四月二十七日頃より境界線に接して穴堀りを始め基礎工事に着手した。

そこで債権者は昭和三十四年四月二十九日債務者に対し民法第二三四条により境界線より一尺五寸以上の距離を存して建築され度い旨申送たが債務者は聞き入れず工事を進行せんとしつつある債権者は境界線に面して汲取口数ヶ所を設置する計画であり又、非常の場合の為めにも空地を存すべきであるから、債権者は債務者に対し境界線より一尺五寸の距離を存し建築するよう訴求の心組であるが急迫の場合であるから生野簡易裁判所に仮処分命令を申請した結果、同庁は申請は理由があるとして、左の要旨の仮処分決定があつた。

債権者所有土地と債務者所有土地との境界線より債務者側へ巾一尺五寸の間の土地の占有を執行吏の保管に移し同所に高さ屋根迄の空間を侵するような建物その他の工作物を建築してはならない。

三、債務者はこれに異議を申立て建築基準法をたてに債権者の迷惑を顧みず施行しようとすることは権利の濫用とも云うべく債権者は右仮処分決定の認可を求める

と述べ

疎明として、≪省略≫

債務者代理人、は主文第一項乃至第三項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、異議の理由として、

一、債権者債務者間の生野簡易裁判所昭和三十四年(ト)第四七号仮処分命令事件につき同裁判所は昭和三十四年五月一日仮処分決定を発し債務者は同月四日その正本の送達を受けた、が、債務者は該仮処分決定を受くる理由がない。

二、債権者主張中債務者は債権者所有土地(大阪市生野区新今里町一丁目十五番地の二)の東側に隣接せる同町十六番地の土地二十七坪を所有して居り該地上に西側債権者所有土地との境界線に接して鉄筋コンクリート造りの建物を建築せんと基礎工事を始めて居る事実は争わない。債権者は、債務者に対し民法第二三四条の規定により境界線より一尺五寸以上の距離を存して建築せよと求めるが、

債務者が、債権者の土地との境界線から一尺五寸の距離を存せず境界線に接して鉄筋コンクリートの建物を建築することは、民法の特別法たる建築基準法の許容するところで何等違法はない。

建築基準法第六十五条によると、「防火地域又は準防火地域内にある建築物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」と規定されて居り、右債務者の土地は準防火地域であり、債務者の建築物は鉄筋コンクリート造りで右基準法に謂う「外壁が耐火構造」に属するものであるから債務者がその隣接地との境界線に接して建築することは建築基準法によつて容認せらるるものであり、関係当局において債務者の建築が認可せられたのである。

なお、債権者は汲取りが出来ないとか、非常の際に困ると云うことを主張するが自己の為に他人の土地を使用せんとするもので理由にならない。

叙上の次第で本件仮処分は取消し、仮処分命令の申請は却下せらるべきである。

と述べ、疎明として、≪省略≫

理由

債権者が大阪市生野区新今里町一丁目十五番地の二の土地八十四坪余を所有し、債務者がその東側に隣接する同町十六番地の土地二十七坪を所有すること、その境界線は南北に走る一直線であることは、疎甲一号、二号、仮処分命令申請書添付の図面により認められる。そこで本件仮処分につて債権者に被保全権利があるかどうか、債権者は債務者が右境界線に接して建物を建てることは、民法第二三四条に違反するので境界線と一尺五寸以上の距離を存置して建築せよと求めるのであるが、特別法たる建築基準法第六十五条によれば右民法の規定の例外として、「防火地域又は準防火地域にある建築物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」と規定されて居り、債務者の建築物が鉄筋コンクリート造り(二階建)であることは疎乙四号により又債務者の右土地が準防火地域内にあることは疎乙一号により認められるから、右債務者の右建築は、建築基準法第六十五条により許容された合法的なものと云わねばならぬ。

債権者はなお、右一尺五寸の空地を存しないと、ふん尿汲取に支障を来し又、非常の際に困難があると云い、境界に接して建築することは、権利の濫用であると主張するが、債権者のそのような必要は他人の土地を使用することを合理化するものとは考えられないから採用の限りでない。

そこで、本件仮処分決定は存続すべきでないからこれを取消し債権者の該仮処分命令申請を棄却せねばならぬ。

よつて、訴訟費用の負担につき民訴第八九条仮執行の宣言につき同法第五四八条を適用して主文の通り判決する。

(簡易裁判所判事 牟田口峰雄)

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